事業の趣旨・目的

 香川県では、若年層の県外流出や早期離職、企業の人材育成力の弱さが複合的に影響し、地域中小企業の人材確保・定着が深刻な課題となっている。高卒者の県内進学率や企業の新卒採用充足率は全国平均を大きく下回り、県内企業は「希望する企業や仕事がない」と学生に認識されるなど、企業の情報発信力や職場の魅力訴求力の不足が浮き彫りとなっている。また、若手人材の定着率も低く、特に中小企業では育成の担い手となる指導者不足やOJTの質のばらつきが顕著である。さらに、DX推進についても、香川県を含む四国地域の対応は極めて遅れており、その大きな要因の1つとして「DXを担える人材・ノウハウの不足」が挙げられている。これらの課題は相互に連動しており、持続的な地域産業の発展に向けて、地域内で実践力を備えた人材の育成・定着に向けた新たな教育的取組みが急務である。

 そこで本事業では、県内の「情報系・情報ビジネス系の専門学生」と「企業」の双方を対象に、相互連携した実践型プログラムを開発・実証する。学生は「地元で働く意義を実感するキャリアデザイン」「非認知スキルの養成」「実際の企業の業務課題に基づくPBL」の3点から、地元で活躍する人材となることを目指し、企業は「若手人材の定着を支援するノウハウ獲得」「職場環境の改善」「自社の魅力を効果的に発信する」の3点から、若者から選ばれ、育つ企業を目指す。人口減少地域である香川県において、双方からの歩み寄りによって、「採用⇒育成・定着⇒活躍」の理想的な人材サイクルの形成を目指す。プログラムの効果は段階的に検証・改善し、最終的には地域に根ざした汎用性のある教育モデルとしての定着を目指す。

当該教育カリキュラム・プログラム(地域活性化型)が必要な背景

1.香川県における現状と課題

【課題1】若年層の県外流出に伴う県内企業の採用充足率の低下
若年層の
県外流出
・高卒者の県内大学進学率 17.7%(全国ワースト4位)
 香川県「100の指標からみた香川(令和7年度版)」
採用の難しさ・香川県内企業における新卒採用の充足率 37%(全国平均の約半分)
 2024年卒の採用充足率における全国平均は75.8%
 大学・地域共創プラットフォーム香川「県内企業の採用活動に関する実態調査」(2024)
 株式会社マイナビ「マイナビ2024年卒企業新卒内定状況調査」(2024)
【課題2】若手人材の早期離職と育成の難しさに伴う人材不足
早期離職の
増加
・新卒者の3年以内離職率が上昇傾向
 -特に中小企業で顕著
 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」(2024)
人材育成
体制の課題
・香川県内企業における人材育成の課題・方法
 課題:1位「指導者の不足」58% / 2位「育成人材の離職」32%
 方法:1位「OJT」75%2位「社内集合研修」25%
 百十四経済研究所「県内企業の人材育成の現状」(2023)
【課題3】DX推進の遅れとIT人材の不足
DX推進が
遅れている
・四国地方は「DXに既に取り組んでいる」と答えた企業の割合が全国で最も低く(7.4%)、「必要だと思うが取り組めていない」が最も高かった(33.0%)
 リコー、リコージャパン「DXに関するアンケート」(2023)
企業の
人材不足
・香川県内企業の55.8%が「正社員が不足している」と回答
 ‐ コロナ禍以降、四国4県で継続して最も高い割合、慢性的な人材不足
 帝国データバンク高松支店「四国地区人手不足に対する企業の動向調査」(2024)

香川県には、3つの課題がある。
①若年層の県外流出、地元企業採用難
②若年層の職場定着難・早期離職
③DX推進の遅れ、IT人材の不足
これらの課題は、「採用⇒育成・定着⇒活躍」という理想的な人材サイクルに支障をきたす課題である。結果的に、香川県は四国でもトップの正社員不足となり、四国地方は全国で最もDX推進が遅れることとなった。
このままでは、今後の地元産業の衰退に大きく影響する恐れがあるため、各課題に対する対策が求められる。

2.課題の原因分析

各課題の背景考えられる原因


1
卒業後、香川県での就職を希望しない理由は、
「希望する企業や仕事がない」が1位
(県内在学生の24.6%、県外進学者の50.4%が回答)
香川県「県内大学生・県出身県外大学生等アンケート調査」(2020)
・県内企業の魅力が十分に伝わっていない
・希望に合う職種や環境が少ない
・企業からの情報発信不足や学生との接点が少ない


2
企業が新卒人材に求める要素
「主体性」(84.0%)「リーダーシップ」(76.9%)
日本経済団体連合会「採用と大学改革への期待に関するアンケート調査」(2022)

一方、IT人材は
「内向的傾向、対人関係への苦手意識が強い可能性」
ホランド理論における職業的興味の6つのタイプ「研究的」「現実的」の特性
・OJTは外部研修やOFF-JTに比べ、導入ハードルが低いが、
正社員不足の県内企業では、教え方に体系がない・慣れていない
人材がOJTを担っている場合が多い
⇒OJTを支える指導者やメンターの不足 ≒OJTの質に課題
・OJTはある程度の主体性や対人スキルが前提
⇒社会人経験が浅い若手にとっては教育自体が負担
⇒企業と若手人材の間にズレが発生している


3
四国地域の企業DXが進まない理由は、
「対応できる人材がいない」(48.4%)
「必要なスキルやノウハウがない」(43.2%)

帝国データバンク高松支店「四国地区DX推進に関する企業の意識調査」(2024)
・DX推進に関心はあるが、行動に移せていない企業が多い
・企業内部のDX実行力(人的資本)が決定的に不足している
・「DX推進人材の確保・育成」、「ノウハウの欠如」が障壁

3.本教育プログラムの必要性

 以上から、香川県では、前述した3つ課題が顕在化しており、このままでは、地域企業の成長が鈍化し、香川県の経済にも悪影響を及ぼしかねない。専門学校・学生・企業が一体となり、地域に根差した人材育成と就職支援の新たな仕組みが不可欠である。本プログラムでは、DX推進の観点から、地域企業の変革を支える情報系・情報ビジネス系の学生と、地域経済を担う企業に焦点を当てる。学生は「地元で働く」意義や魅力を体感し、非認知スキルを高めながら、就職・定着・キャリア形成へとつなげること、企業は、若手育成や学生との関係構築、採用ノウハウの獲得を通じ、持続的な組織力向上を目指す。
 また、本取組は香川県内にとどまらず、四国全体や、同様の課題を抱える他地域への横展開も見据えている。地域の特性を踏まえた「人材育成モデル」として先行事例となり得る点でも、大きな意義がある。最終的には、専修学校が地域産業と連携しながら発展し、広域的な教育・産業振興の好循環を生み出す原動力となることを目指す。

開発する教育カリキュラム・プログラム(地域活性化型)の概要

1.本教育プログラムの目的

  ⇒地元に根ざした持続可能な人材育成の仕組みを構築し、学生と企業が互いに成長できる関係性を構築する
  ・学生が地域・地元企業の魅力を知り、主体的にキャリアを描ける
  ・企業が若手を育てる力を持ち、地域で選ばれる組織となる

<本教育プログラムの新規性>

観点新規性のポイント
1. 双方向・協創型の設計学生・企業双方に対する教育プログラムを別々に構築しながら、両者をつなぐ「対話の場」も組み込んでいる。単なる就職マッチングではなく、関係性・価値観の共有を重視した設計。
2. 非認知スキルと
DX人材の両立育成
従来の専門教育やOJTに偏らず、非対面環境でのコミュニケーションやキャリア意識形成といった非認知スキルの体系的育成を組み込んでいる。更にPBLではDX的な業務改善・生成AI活用も前提とし、現代的なビジネスリテラシーも習得可能。
3. 企業側への教育介入「学生を育てる側」である企業自身に、職場環境の見直しや発信力強化、人材育成力の向上を目的としたプログラムを提供する“企業の学び直し”の要素を含む。
4. 地元密着型の
キャリア形成支援
一般的なキャリア教育では扱われにくい、地域資源や地場産業への理解・共感を前提としたキャリア設計を重視しており、地域定着を目的とした教育としての新しさ。

2.各教育プログラム案

<学習の流れ>

 eラーニングを事前学習、事後学習を目的で設置。事前学習により、リアル授業におけるより効果的な理解の深化、演習時間の確保につなげる。事後学習により、学習の振り返り、習熟度確認を可能とし、日々の学び、仕事への活用やモチベーション維持につなげる。

概要形式



①地元キャリアデザイン
ワークショップ
地元理解とキャリア形成
地元産業や魅力を動画教材で学びつつ、ワークショップで自身の価値観を可視化。キャリアアンカーやホランド理論を活用し、「地元で働く意義」と将来像を明確化。
・対面形式(4時間)
・動画教材(3分×5)
・eラーニング(2時間)
②コミュニケーション・
リテラシー実践
非認知スキルの実践習得
傾聴・報連相・プレゼンなどの非認知スキルを、基礎学習とロールプレイ・グループワーク等で実践的に習得。非対面環境や年長者との関係構築にも対応力を養う。
・対面またはオンライン
(6時間)
・eラーニング(2時間)
③業務改善案PBLPBLによる課題解決力の育成
地域企業の課題に対し、ECRSやなぜなぜ分析を用いたチームでの改善提案を実施。生成AIやデータ活用を含めたDX視点を取り入れ、実効性の高い提案力を育成。
・対面形式(6時間)
・eラーニング(2時間)

業向
①メンタリング・
コミュニケーション力向上
若手と信頼を築く対話力研修
コーチングやアサーティブ・コミュニケーションを通じて、傾聴や励ましの技術を習得。リモート対応や1on1のデジタル化など、先端技術の活用も学ぶ。
・対面またはオンライン
(6時間)
・eラーニング(2時間)
②職場環境改善
ワークショップ
働きやすい職場環境の可視化と改善
心理的安全性や地域資源を軸に、自社の課題を見える化し、短期的な改善策を立案。対話と合意形成を通じて、DXに強い職場づくりを促進。
・対面形式(6時間)
・eラーニング(2時間)
③採用・
ブランディング力向上
魅力が伝わる発信力の強化
EVPの再定義からSNS発信まで、魅力の伝え方を実践的に学ぶ。ChatGPTなどを活用し、広報スキルと即戦力を養成。
・対面形式(4時間)
・eラーニング(3時間)

学生×企業ダイアログ・
マッチングセッション
学生によるPBL成果発表、企業による職場環境改善案の発表
地元企業の実情や課題を理解し、働きがいやキャリアパスなどについて対話も。単なるマッチングを超え、双方が理解し、互いに将来をイメージし発展可能な関係性を目指す。
・対面(6時間)

3.受講者が主体的に学習を続けられるように

 受講者の主体的な学習の継続を目指し、“内発的動機付け+学習の可視化・承認+仲間とのつながり”をバランスよく支援できるよう設計。

(1)LMS(ラーニングマネジメントシステム)の導入

LMS:教材配信や受講者管理、学習進捗の把握などを一元的に行うためのシステム
 スマートフォンやPCでアクセスできるオンライン上のプラットフォーム

<効果・メリット>
受講側管理側
1.学習の自由度向上
 ・時間や場所に縛られず、学習できる
 ・スマートフォンやPCでもアクセス可能(スキマ学習がしやすい)
 ・自身の理解度や都合に応じて、スピードや順序を調整可能
2.学習履歴の可視化
 ・学びの進捗やテスト結果など確認でき、モチベーション維持に効果
 ・学びのポートフォリオとして活用可能
3.フィードバックや対話の機会が得られる
 ・講師からのコメント・自動採点・評価がリアルタイムで確認
 ・掲示板・コメント機能で他の学習者との交流・意見交換が可能
1.教材と学習管理の一元化
 ・教材、課題、テストなどを1つのプラットフォームで管理可能
2.学習状況の把握と分析が容易
 ・各受講者の進捗・アクセス状況・回答傾向をデータで可視化
 ・学習のつまづきや傾向を把握し、個別対応・改善につなげやすい
3.複数を対象に同時対応が可能
 ・学生向け、企業向け、など異なるコース設計を同時に展開可能
 ・履修状況や成果物も対象別に整理しやすい

(2)LMSを活用した学習サイクルの構築

 受講者が「学習を始める前」→「実践」→「振り返り」→「次の学び」へと進む中で、定期的に「自分の学びや成長」を確認し、次の行動へ活かすための一連のプロセスを構築する。学びを一過性にせず、深め、定着させ、行動変容に結びつける循環構造である。

 学生・企業を問わず、受講者は導入時に自己診断を行い、自身の現状や関心に応じた個人目標を設定する。LMSを活用し、学習の進捗や理解度を可視化・支援することで、主体的な学びを促進する。
 また、「自己評価・振り返り」「講師からのフィードバック」「相互評価」などを通じて成長を多面的に把握し、次の行動に活かす。これにより、学びを深めながら実践と内省を循環させ、行動変容へとつなげる学習環境を構築する。

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